「私は、鳥になりたかった」 藍緋が、ぽつりとこぼした。 辺りはもうすっかり夜の世界に侵食されていて、空にはほんの少し、誰かの食べ残しの屑ように星が瞬いている。月は黄金に輝いて、藍緋の白い頬を柔らかく照らした。 「なんで、鳥になりたかったんだ?」 良守が尋ねると、藍緋は無表情のまま淡々と、自由になりたかったからだと答えた。自由、それは藍緋が望んでやまなかったもの。憧れの象徴。 「でも、俺は、藍緋が鳥じゃなくてよかった」 「?」 「だって、そしたら、藍緋は俺を置いていっちゃうだろ?」 それは寂しいから、と笑った良守に、藍緋も笑いかけて、そうだな。と頷いた。 昔は、ずっと鳥になりたかった。あの青空を流れる白い雲のように、自由でありたかった。 でも、今は空に逃げたいとは思わない。地に根を張り、束縛する我が身を何度恨めしいと思ったけれど、その根があるからこそ、良守のいるこの地上に、世界に留まっていられる。 藍緋は、そんなふうに思える自分はなんて幸せなのだろうか、と空を仰いで思った。 |
***きみと隣と鳥の歌*** 今はもう、遠い過去の願い事 |
良は、無意識に藍緋さんを救ってるといい