「あれ?辰馬さんじゃないですか!」 「おお!あ〜誰じゃったっけ、ほら、その、金時のとこの眼鏡坊主・・・・」 「新八、です」 「そうじゃったそうじゃった!で、古ぱちくん、こんなとこで何しとるき?」 「・・・・・名前、早速間違ってますよ辰馬さん」 二人して、土手沿いに夕日を背に歩く。影が、主から逃げるかのように長く前に伸びていく。しかし、足元は繋がったままで、影は自由になることは出来ない。 そんな様子を見て、新八は、珍しい今の事態に、どこか夢の様だと考えながら、足を進めた。 見かけたのは偶然。スーパーからの帰り道、いつもの河原にかかる橋からふと、土手に目をやったら、見慣れた人が目に入った。 赤い装束、癖のある髪。サングラスの奥に潜むのは、どんな色の瞳か。 おちゃらけた言動や行動で、ついつい騙されるけれど、その人は、確かに新八の知らない世界を知っている人間だった。 そして、新八の雇い主である、坂田銀時の過去を知る、数少ない人物。 新八は、一目見たときから、この辰馬という人間が少し苦手だった。神楽は、新八の何倍も何万倍も、彼を警戒している(本能が叫ぶのだろうか、油断するなとでも)(確かに、気が付かないうちに、喰われていそうだ)(喰われたことにも気が付かないで) 新八も、神楽ほどではないが、食えない人だな、というのが彼に対する評価だ。サングラスが、余計にうさんくささを醸し出しているのかもしれない。同じようにサングラスをしている長谷川さんとは、明らかに雰囲気が違ったから。 「そういえば、金時の奴は元気じゃき?」 「・・・っええ、毎日糖分糖分叫んでます」 「あいかわらずじゃの〜、桂が言っとった。奴の脳みそは綿飴でできとる、っての」 いきなり話しかけられて、半分現実感を失っていた新八は慌てて答える。辰馬は、そんな新八に気にした風もなく、今日は桂に会ってきたき、と笑った。 「・・・・のぅ、降るパリくん」 「もはや、原形すらとどめてないですよ辰馬さん」 「おんしは、今楽しいき?」 新八の言葉なんて華麗にスルー。あのですね!と新八は続けようと思ったが、辰馬のこちらをサングラス越しに見る目が、彼にしては真剣で、思わず言葉を飲み込んだ。 (どうしたん、だ、ろ) 楽しいか、と言われたら、楽しいと答えるだろう。迷惑することの方が多いけれど、それでも、新八と神楽と、そして銀時がいて、3人で毎日が過ぎていって、それは、ひどく愛おしいものだ。 新八は、辰馬の目を見た。合わさった瞳、うっすらと見える、黒の向こうの光に向かって、新八は言った。 「銀さんは、いつも寝て食ってテレビばかり。しかも、糖尿病でトラブルメイカー。ちゃんと社会復帰できるように、少しは努力をしてほしいです。神楽ちゃんは力任せの大喰らいで、いつも家計は火の車。ちょっとでいいから、抑えればいいのに、って思います。いつも、僕、苦労するんです。破天荒だから、2人とも。姉上が混ざると、拍車が掛かる。桂さんが加わると、もう、止まんなくなって。とっても困ります。困るんです。でも、なんか、」 僕は、言葉を続けた。 「毎日が、夏休みみたいだな、って。銀さんと出逢ってから、いつもはちゃめちゃで、びっくり箱みたいで、休めてるんだか休めてないんだかわからない、そんな、夏休みみたいな毎日で」 「ほうほう」 「だから、きっと、これが、楽しいって事なのかもしれない、です」 自信も保障もないですけど、と付け加えれば、辰馬はにかっと笑って、それが人生を謳歌するってことじゃー!と、握り締めた掌を空高く突き上げて、夕日に吼えた。 横目で見てると、なんという不審者。でも、思わず、僕はくすり、と笑ってしまった。 「お!やっと笑ったぜよ」 「え?」 「金時も、そんな風に笑ってくれる奴が傍におったら、安心じゃの〜」 ふわり、とてもやわらかい微笑み。こんな笑顔を、自分は昔、見たことがある。 (そう、だ。父上と同じ―) まるで、家族に向ける、あったかい眼差しだ。 「それじゃあの!わしは、もう帰らな陸奥の奴に折檻されてしまうき」 辰馬が、横の道を指差して、手を振った。さよならの合図だ。背を向け、路地に吸い込まれる。新八は、ぎゅっと、スーパーの袋を握り締める手に力が入った。なんか、足りない。このまま、見送って、いいのか。 「あの、辰馬さん、は」 思わず、口に出た。出す気なんてなかったのに。咄嗟に、まだ行かせてはいけないと、喉の置くから引き止める言葉が飛び出た。辰馬は歩を止めて、くるり、とこちらを不思議そうに見つめる。どうしよう、とぐるぐる、頭を色んな言葉が駆け巡るのに、出てきた言葉は、まるで脊髄反射の様に脳みそを通さずに発せられた。 「辰馬さんはっ・・・その、幸せ、ですか?今、あなたは、」 ぽかん、そういう形容詞が一番あっている気がする。辰馬は口を少し開けて、虚を突かれたように、新八を見た。それは、もう、穴が開くかと思うほど。 少し経って、新八が言ったことを後悔し始めた時、微かな空気の振動音が新八の元まで聞こえてきた。発源元は、背を折って腹を抱える辰馬からだ。 「くくっあっはっはっはっはっは!」 ついには、辰馬は天に向かって笑い始めた。腹を押さえながらの大爆笑。途中、あまりに仰け反るので、バランスを崩しかけそうになった。 「お、おんし、まっこと面白き坊主じゃの!わ、わしに幸せって!いっつも、わしは幸せに過ごす以外の取り柄があるか、と皆に文句を言われとるほどと言うに・・・っははは」 ひーひー言いながら、ようやく落ち着いてきた辰馬は、目元に溜まった涙を人差し指で救って、勿論幸せぜよ、と息も絶え絶えに新八に言った。 「この世に、まだ桂も晋介も、金時もおる。これが幸せでなく、なんだというのか、わしは、それを知らんぜよ」 そういいながら、辰馬は今度こそ、路地の中に消えていった。新八は、しばらく立ったままでいたが、遠くから聞こえてくる自分の名前に、ふと、そちらを向く。 視線の先には、暗くなっていく空と手を振りながらこちらめがけて走ってくる神楽の姿。その後ろに、だるそうに頭を掻きながらあくびをする銀時。新八は、一度、辰馬の消えた路地を見て、頭を下げた。 「新八ィー!早くしないと、私の胃袋が空腹で水爆発するネ!早くするよ、メガネ」 「はいはい、今行くよ」 今日の夕飯は、ミートボールだ。 |
黄昏の詩 (きみがいてぼくがいてあなたがいて、だから、まいにちがかがやいているの) |
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遅くなりました、リクエストの辰馬+新八で銀さん語り・・・・あ、れ?銀さん語りじゃなくね???これ
す、すすすすいませーん!なんか、途中からお父さん、息子が幸せ心配で確認。みたいになってますよ、ね。あれ?おかしいな・・・・辰馬は、銀さんが今楽しいか、幸せか、心配な父親の心境だといいです。あのさみしがりは、大丈夫かの〜みたいな。あんまり、心配といた心配はしてないけど、ふとしたとき、やっぱ、大丈夫かなって思ったりすればいい。桂は攘夷のお母さん、辰馬はお父さん、っていうのに萌えてしまいます(長男が銀さん、次男は杉で^▽^)
それでは、リクエスト、ありがとうございましたー!