「なあ、晃。お前、付き合ってる奴でもいんの?」

発端は、級友である檜山のこの一言だった。
思わず、口に含んでいたCCレモン(俺としてはC1000タケダとかの方が美味しいと思う。まったくもって個人的な意見で関係ないのだが)を噴出しそうになるのを無理やり押さえ込むが、激しく泡を出す炭酸飲料は見事に俺の気管支の内部へと侵入を果たした。
ゲホゲホッと苦しく咳き込むが、喉に何かが引っかかったかのような違和感は拭えない。俺は自分をこんな状況に追いやった級友を恨めしげに睨んだ。
檜山は、俺の視線も殺気もなんのその、涼しい顔をして更に追求してきた。このやろう。
しかも、耳ざとい他の友人たちもこぞって話題に乗ってくる。

「え、晃って彼女いんの〜?」

「まじでか!?聞いてねぇぞ、おい!」

少し悪い気がするが、俺の友人の大半は独り身の奴ばかりだ。そりゃあ、高校生だし、クラスには付き合ってる奴らもいるが、俺の友達はそこらへんのとこが恵まれていなかったようだ。勿論、俺を含めて。
俺の隣で大袈裟に頭を抱えていた大沼(ついこの間、彼女と別れたばかりだった)が、いきなり咳き込む俺の襟首を掴み、ブンブンと前後に振った。ちょ、やめろ、目が回る!彼女なんかいな・・・いや、彼女と自覚のない彼女というか、一方的片思いのような両思いのような、結婚前提っていうか主従関係って言うかなんというか、好きだから持ち主から掻っ攫ってきてしまった(いや、飼い主の了承は得たけれど)奴はいるのだが・・・。
目が回り、頭も盛大に回った俺は、脳味噌がまるでミキサージュースでどろどろにされたような気分だった。うえ、想像しただけでも気持ち悪い。声は発せないわ、気分悪くなるわ、もう最悪だ。


「にしても、檜山はなんでそう思ったの?」

正面の机でバナナ・オ・レを片手に傍観していた乃木(視力がいいのに伊達眼鏡をしている。前になんで眼鏡をしてるのか聞いたら、その方が優等生に見えるからだと。一体どんな理由だ、おい)が静かな口調で檜山に向かって聞いた。ナイス、乃木!大沼の俺を揺さぶる手も動きを止めた。

「いや、だって晃、佐伯のこと振ったんだろ?大切な奴がいるとか何とか言って」

「え、おい、まてよ!なんで檜山がそんなこと知って・・・」

ハッとなって口を紡ぐ。背後からの大沼の殺気のような怨念が恐ろしい。
佐伯はクラスの女子だ。まあ、可愛いと俺も思う。少し前の俺だったら諸手を上げて喜んで申し出を受けただろう。
しかし、今は喜べない。受けることもしない。何故なら、俺にはもう、父親から攫って来てしまった箱入り娘が一人・・・じゃない、一匹いるのだから。
大沼の腕が、今度は襟首をつかむのではなく、首そのものに回り、締め上げられる。やめろ、苦しいだろ!
必死になって大沼の腕を叩いて降伏の白旗を掲げる。乃木が、やんわりと大沼を鎮めてくれたこともあって俺は何とか地獄の底から復活を果たしたのだった。

「で、誰〜?晃の大切な奴ってさぁ」

にやにやと脇腹を肘で突っついてくるのは須藤だ。誰だっていいだろ、そう言おうとしたら、誰だっていいだろは無しね〜、と須藤の調子いい声が遮る。くそう、こいつはこういう時妙に鋭い。どうしよう。
まさか、言えるはずないだろ?大切な大切な宝物みたいな相手は、この前異世界で出逢った、魔法を掛けられた、ちっちゃな黒猫の女の子、だなんて!
あー、とかうー、とか、言葉にならない音を発し続ける俺に、大沼だけでなく、須藤や檜山、普段こういったことに興味のない乃木までもが、はっきりしろと詰め寄ってきた。
・・・仕方ない、リスルゥが猫だと隠して言えば、まあなんとか乗り切れるだろう。
俺は溜息を一つついて、頬を掻きながら、友人たちの望む質問に答えようとした時だ。

「あきらーっ!」

黒に包まれたなにかが、俺めがけてタックル!顔が柔らかいものに当てられる。ふに、とするこの感触は、毎晩飽きるほど、俺の理性を崩してしまう。だが、決して昼間は味わえないものだ。疑問に思う前に、頭に腕を回され、胸を顔に押し当てられる。

「晃、リスルゥ、ここまでひとりできたんだよ!えらい?ねぇ、えらい??」

ごろごろ、と喉を鳴らし、今度は頬を摺り寄せて満面の笑みで甘えてくる。やばい、可愛すぎる。
思わず、いつもの習慣で、この場には絶対いないはずのリスルゥの腰に手を回し、優しく包み込む様に抱きしめる。この時、俺はすっかり此処が学校で、級友たちの目があることを失念していた。

「あのね、マスタがね、晃にわるいむしがつかないようにみはってろって、ぴかーってひからせてね、おっきくしてくれたの!」

なんてことするんだよ、ヴェンツェル!おまえ、こっちでは猫耳オプション付きの女の子なんて存在しないっての!!!って思ったら、ちゃっかり耳はフードで隠れてる。尻尾も見えない。しかも、いつもより露出が控えめな服装だ。なんだよ、やればできるんじゃないか。今までの理性と本能の鬩ぎ合いで疲弊していた俺の苦労を返してくれ。
俺がヴェンツェルに心の中で思う存分文句をいってると、ふと、リスルゥの首から何か下がっているのに気が付いた。メモ用紙がピンで留められ、チェーンに繋がっている。紙にはこう書かれていた。

【馬鹿猫にも虫がつかないように協力してやった。感謝しろ】

なんて横柄な奴だ!友達になれると思ったのに。しかも、リスルゥに超ご機嫌声で呼ばれやがって。勝てないって、わかっているけど、むかつく。

「ヴェンツェルの野郎・・・!」

ぐしゃり、リスルゥの首から下がっていた薄っぺらい紙を握りつぶす。リスルゥは、頭にはてなを浮かべながらも俺に甘えてくる。ぎゅってして!だと?あぁ、こんちくしょう。こいつに非はない(とはいえないが。もう少し脳味噌をどうにかするべきなんだろうか・・・いや、今のままでも可愛いから別に構わないけれども)から怒るに怒れない。
俺のやり場のない怒りの熱は、しかしながら、檜山の一声でサァーっと見る間に冷めていった。


「・・・・でさ、晃・・・誰?その子」


・・・・俺は馬鹿だ。認めよう、認めるとも。ヴェンツェルの俺を小馬鹿にした笑いが目に浮かぶが、もうそんなことどうだっていい。冷や汗が、背中をたらりと流れる。やばい。
辺りを見回せば、突如現れたリスルゥと俺に視線釘付け。注目の的。他の奴らまで見てる。さらば、俺の静かで平穏な学園生活よ。
あはは、と乾いた笑い声を上げながら、後ろへ後ずさりする。リスルゥは相変わらず、首に腕を回して俺にぶら下がっている。正面から寄せられる、俺の友人たちの視線なんてなんのそのだ。まったく、図太い神経をしている。さすが、ヴェンツェルの使い魔だ。ペットは飼い主に似る。その言葉は正に、こいつらのためにあるようなものだと、俺はどこか遠い世界で思った。






*My weet over*


誰にも知られずに隠しておきたい宝物


オリジナルの子多し

ちなみに、檜山くんは剣道部の副主将であっさりで人が良い性格
きっと、女子に晃の彼女のことを聞いて来いとでも頼まれて話題に出したに違いない

乃木くんは囲碁部の幽霊部員
表面優等生の面倒くさがりやなのに、頭は良い子
気が付くと何かパックジュースを飲んでる不思議と落ち着いた変人さん

大沼くんは水泳部
つい最近彼女と別れて荒れている
外見に似合わない繊細さが際立つ、兄貴分

須藤くんは鉄道愛好同好会
ちょっと電波なムードメイカー
明るい性格だけど意外に鋭い、不思議くん


・・・・・この後、きっと猛ダッシュでリスルゥを抱えながら学校から退散するも、明日質問攻めにあうであろう事態を考えて頭を悩ますに違いない
やべ、主リスってたのしすぎる!
でも、このネタは他の子でもやりたい
密かに乃木くんとか、晃を想ってたりしたらおもしろいね!
(どこまで暴走するつもりだ)

にしても、久々の一人称・・・書きやすいなぁ笑



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