「ねぇねぇ、晃!これ、これはなぁに?」

リスルゥが、長い宵闇の髪を靡かせながらテレビを指差して尋ねてきた。
晃は、読んでいた雑誌を机の上に置き、それはテレビって言うんだ、とリスルゥの頭を撫でながら言った。

「テレビ???」

なんだろう、とむーんと考え込むリスルゥ。
無意識なのか、撫でられている耳が時々ぴくり、と左右に動く様は何とも言えず愛らしい。
晃は、くすり、と微笑みながら、今度は喉の下を撫でてやった。嬉しいのか、目を細めてぐるぐる鳴きながら、晃の膝に頭を擦り付けてくる。可愛い。

「テレビは、映像が見えるんだ。ヴェンツェル・・・お前のマスタも、時々法術で町の様子を見てただろう?あれと一緒だよ」

「マスタのほうじゅつといっしょ?じゃあ、マスタもこれ、みてるのかなぁっ」

大好きな主(とはいっても、今は晃が主人なのだが)を引き合いに出せば、とたんに輝く瞳が、少しだけ憎らしい。しっぽを、パタパタと振って喜ぶリスルゥに、そんなにあいつに会いたいのか、と晃は暗い気持ちになる。
エリダラーダからリスルゥを連れて返ってきて、もう2ヶ月になる。長いようで短い。短いようで長いときの流れは、それでもこの世間知らずの猫から、前の主を風化させることはなかった。
それは、とても寂しいことで、でも、わかりきってることだった。誰だって、何だって、一番初めに自分を見つけてくれた存在を消し去ることは出来ない。晃だってそうだ。両親や妹を忘れることは出来ないのだ。わかってる。わかってはいるのだ。でも、

「ねぇ、晃!リスルゥ、晃になでなでしてもらいたい。抱っこも好き・・・して?」

「あぁ。おいで、リスルゥ」

「わーい!晃だいすき!!!」

ボスン!と大きな音と埃を立てながら、リスルゥと晃はベッドに倒れこんだ。
上に乗っかってくるリスルゥを、優しく抱きしめる。肩に顔を埋めて、首と腰に手をやる。細い身体を包み込むように抱きしめたら、リスルゥの耳に、月に叶えて欲しいほどに切実な願いを、そっと囁いた。

「なあ、リスルゥ・・・早く、俺が一番好きだって、言って―?」





中、

それは僕だけの秘密の願い事








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