「火黒、帰ろーぜ!」

烏を肩に停まらせながら、境内の一番大きな杉の木の枝に座っている火黒の隣で、良守は言った。
辺りは黄昏時。逢魔ヶ時とも呼ばれるこの時間帯は、世界の境界線が交わる時間帯だ。
神佑地ではないとしても、それなりに霊的要素を含む神社の中は、どんどん空気が変わってく。
良守は、急に凍えるように寒い風をその身に浴びて縮こまった。

「なぁ、火黒ー!もう夕飯の時間だし、父さんたちも心配するから帰ろうって」
「・・・んー、もう少し、一緒にいたいなぁ」

寒いし早く帰宅したかった良守だったが、火黒は少し寂しそうに遠くを見つめながら、もう少し一緒にいたいと呟いた。はぁ!?と、良守は意味がよくわからなかったが、ただ、自分と一緒にいたいといいながら、遠くを淋しそうに見つめる火黒が、無性にむかつく。

「じゃあ!・・・じゃあ、そんな、俺とは関係ないようなとこばっか、見てんじゃねーよ!!!」

火黒の左手を、ぎゅっと右手で上に重ねて握り締めながら、俯いて叫んだ。
気に入らない。胃がムカムカする。なんだろう、なんか、俺、おかしい?
火黒が、俺以外を、見つめたり、するのが、嫌だ。だなんて。

俯いた俺の言葉と、紅くなった俺の耳を見て、火黒が幸せそうに笑ったのを、俺は気が付かないままだった。



覚な


ねえ、もっと、俺だけを見て?








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