「あれ?大賀、それってなぁに??」

魔法の授業を抜け出して、誰もいない家庭科室でエスケープ。毎度毎度の習慣だ。
ただ、今日は少しだけその風景が違っていた。
俺の肩に座っていたルーシーが俺の手の中にあるものを指差して訊ねる。
【それら】は、か細い声で、にゃあと一鳴き、必死に愛されようと甘えてくる。
その様が無性に愛しくて切なくて、俺の胸のうちはいっぱいいっぱいだ。その内、グラスに注がれた水が溢れ出すように、俺の想いも止め処なく流れてしまいそうだった。

「ルーシーは子猫、知らないのか?」

「ううんー、知ってるよ〜?ただ、なんで大賀の手にあるのかなぁって思って」

ルーシーの問いの答は簡単だ。実は、朝登校途中に道端で拾ってしまったというだけのこと。
俺は普段、野良猫とは関わらないようにしている。何故かって?それは、俺の手で助けられる命なんて限度があるということを嫌というほど知っているからだ。全部を幸せにすることなんて、到底無理なのだ。だから、いつも道端で甘えてくる子猫に会うと、猛ダッシュで家に帰る。
だけど・・・だけど、今日、こいつらから逃げなかったのは、このまだ小さな黒と白の2匹の子猫が弱りきった様子でほっとけなかったからだった。
ぷるぷると、がりがりに痩せ細った体を、タオルでそっと包んでやる。
動物好きの体育の先生から貰った子猫用のミルクを紙皿に注ぎ、指につけて子猫達に与える。すると、必死に指についたミルクを舐め始めた。
俺はほっと息をついて、この様子なら大丈夫かな?と、タオルごと床に横たえて、紙皿を子猫たちの前にそっと置いた。
途端に動き出す子猫に安心しながら、これからどうするかを考える。

(まず、病院に連れて行かないと・・・)

財布の中身を確認しながら、はぁと思わず溜息が出る。
うぅ・・・とてもじゃないが、診察代は払えそうにない貧しさだ。

「・・・どうすっかなぁ〜」

腕を組み、うーんと唸りながら考える。
ルーシーは、校長先生に言ってみたら?と提案するが、プレートやらなんやら日頃お世話になっている彼女に、これ以上迷惑をかけるのは憚れた。
マジでどうしよう・・・俺がそうやって悩んでいた時だった。一番聞きたくない声が俺の頭上から落ちてきたのは。

「・・・こんな所で何やってんだ、お前」

「!?い、伊勢兄!!!」

思わず、がばっと身を起こしていつでも逃げられる体制をとる。
何で、今、ここに、こいつがいるんだよ神様!天に向かって石を投げつけたい気分だ。最悪。

「い、いいいや、別に・・・なにも・・・」

じりじりと後ずさる俺。だけど、逃げるに逃げられない。まだ、子猫たちは机の影でミルクを貪ってる最中なのだから。
どうしよう、どうする俺!?ははは、と乾いた笑いだけが教室内に木霊する。
そんな俺を訝しげに見ていた伊勢兄が、ふと机の影にいる子猫たちに気が付いた。

「・・・・・・・・・・なんで、猫が」

伊勢兄のその一言で、俺はもう逃げられないのだと悟ってしまった。







ほら、幸せの形ってこんな感じ!

ってなわけで、兄九with2匹の子猫連載はじまりはじまり〜

・・・・えっと、色々すいません
連載とか言っておきながら、きっとシリーズになりそうですごめんなさい
ほのぼのテーマにやっていきたいと思います
・・・猫って・・・いいよねぇ(ほんわか)




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