ざあざあと雨が煩い中、総悟と金時は2人、みつばの病室を見上げた。 建物の一番右端。角に位置するその部屋は、一切の色を許さず、拒絶の白だけで成り立っている。 終わりは、きっと、もう近くて。 張り詰めていたものが、想いが、がらがらと音を立てて崩壊していくのが、金時にはわかった。 (―なんで、こぼれていくものを、おれは、すくいあげることができないんだろう) 大切なのに。 みつばも、総悟も、どっちも失えないのに。 どうして、終わりは来るのだろう。どうして、自分達は何かを求めてしまうのだろう。 みつばと初めて出逢ったのは、暑い夏の日のことだった。 夜の街、その一角にある煌びやかな世界で、金時はみつばを見つけたのだ。 友人達に連れられて、慣れない世界に落とされて。 困惑している彼女を助けようと、声をかけたのは金時の方からだった。 その瞬間、自分に向けられた彼女の春の様にあたたかな微笑を、金時は決して忘れられないだろう。 そう、金時にとって、みつばは春だった。穏やかで愛おしい、あの季節そのものだったのだ。 客とホストの関係が、恋人同士に変わるのに、時間はさほど必要なかった。 (あの頃は、ただただ幸せだけが続いてて。そんな毎日が、これからも続くんだって、思ってたのに) 壊れ始めたのは、いつからだっただろうか。 あの日、みつばにプロポーズをして。 彼女は泣きながら、金時の差し出した指輪をはめて、ありがとうと小さく呟いた。 その時、金時はきっと世界で一番幸せだったに違いない。金時は、みつばを強く強く抱きしめ続けた。 それから、家族を紹介されて。 唯一の肉親だと、襖の向こうから現れたのは、まだ幼さが残る利発そうな青年だった。 名前が総悟であると教えてもらい、それからはよく、3人で出かけた覚えがある。 彼とは、よく気が合ったので、みつばがいない時も遊んでいた。 なにかあると、連絡をして。はたから見ても、まるで本当の兄弟の様だった。 それが、ある日を境に一変したのだ。 いや、本当は唐突な変化じゃなかった。薄々、気が付いていたのだ。 甘い、だけど切ない空気。想いが宿った瞳で見つめられれば、いくら鈍い自分でも、その意味に気が付く。 だけど、形にしてしまえば、本当に認めることになりそうで。 金時は、ずっと、総悟の想いから逃げ続けていた。 金時にとって、家族というものは未知の領域だった。 今まで、親なんか知らずに生きてきて、家庭なんて、これからも知らないで生きていくと思ってたのだ。 だけど、みつばに出逢って。総悟を知って。金時に、失いたくないものが出来た。 壊したくない。 みつばも、総悟も大切だから。だから、だから―。 金時は、隣に立つ義弟になるはずの青年を見た。 彼は、今、一体何を思って、みつばの病室を眺めているのだろうか。 だけど、総悟の眼差しが病室から自分に移った時、金時は顔を背けて、俯いた。 きっと、今、総悟の瞳に囚われたら、もう、逃げられない。そんな気がして。 金時は恐ろしくて(総悟が恐ろしいのか、自分が恐ろしいのか、それすらもわからない)結末を望まない声と同じくらい、この関係の終わりを強く切望したのだった。 |
砂糖菓子とビターチョコレイト (明日なんて来なければいい)) |
金魂設定でやってみたい、沖→金みつ話
ひなと盛り上がったので、ss晒してみる・・・多分、説明されてない私の脳内設定が頭にないと、わけわからんという始末の代物ですが、ひなに捧げます(こんなのでごめん!汗)
もう、こういう、どろどろしてて、今にも均衡が崩れ落ちそうなんだけど、必死に崩れないように支えて掬ってるお話が大好きです
掌から砂が零れ落ちないようにしてるんだけど、どう頑張っても、零れ落ちてしまっていて、それでも必死に掻き集めようとする、みたいなね・・・もどかしいのが好きです笑
切なくて救えない話なのかもしれないけど、それでも幸せはその中に確かにあるってのが、書きたい
いつか、これを形に出来たらいいなぁと思います
触れたくても、触れられない、そんなおはなし