「あの、銀さん・・・あれって、高杉さんじゃありませんか?」

少しじめじめとした蒸し暑い天気の中、俺と新八は生活必需品買出しのため、大嫌いな炎天下の中へと繰り出した。
その中で、またしても厄介な奴に遭遇。新八の指の先には、昼寝なのか、木陰で横になる獣の姿。そう、本当ならば、こんなとこには存在しないはずの・・・。
ちょっと待て、なんだこの高確立。おかしいんじゃないの?と、俺は茹だる頭でどうしようもないことを考える。
いや、まだ相手はこちらに気が付いていないようだ。今なら逃げれる。今なら間に合う。速攻ダッシュでこの場を離脱するぞ、新八・・・そう言い掛けた瞬間、獣はこちらを見ながら、にやりと笑った。

「よぅ、銀時ィ、買い物か?」

手伝ってやるよ、とにやにやしながらキセルを取り出す仕草に、悪寒が走る。
まずい、非常にまずい。誰か助けてくれ!
心の中で念仏を唱えても、神様は一向に助けてなんかくれなかった。

「ついで、泊めろ」

今日の宿は、お前の所に決めたとは、なんとも随分勝手な言い草だ。
頼むから、会話をしてくれ。
昔はもう少し、可愛かった気がする。今が手負いの獣なら、昔は子猫みたいなもんだ。ひとりぼっちが嫌で、寂しがりやな甘えん坊。でも、素直じゃないんだよな。構うと怒るくせに、構わないと構わないで怒る。優しく、頭を撫でられるのが好きで、良く夜寝る前に撫でてやった覚えがあった。
あの頃は良かったな、と遠い過去の記憶に追い縋る。
ヅラがいて、辰馬がいて、俺がいて、杉がいた、宝物みたいな毎日。
そこには、確かに涙も悲しみも争いもあったけど、それでも、嵐の様な日々から見れば、それは確かに幸せだった。

「・・・・・半分、持ってやる」

普通の男性より、少し高めの杉の声。
よく透き通ったその音は、俺の思考の渦を簡単に吹き飛ばしてしまう。
気が付いたときには、新八と俺の持っていた手荷物の半分が、杉の腕の中に納まっていた。

「なっ!」
「てめぇの家まで持ってってやるよ。だから、褒美として泊めるくらい、しろ」

今日くらいは、と続いた言葉が、チクリ、と胸を指す。
それでも、今日は。今日は、いいのだろうか。昔の、あの頃の様に戻っても。
困惑する俺は、きっと随分幼い顔をしていたんだろう。新八が、心配そうに見上げてきた。
ハッとなった俺は、新八に大丈夫だから声をかける。すると、気を使ったのだろうか?新八が、俺の肩を叩き、杉に後はお願いしますと頼んで残りの荷物も、杉に渡して、帰っていった。神楽も、今日は志村家で預かると、一言言い残して。

「へぇ、随分気の利く助手を持ったじゃねぇか」

笑いながら、新八の背中を見る杉の視線は、穏やかだった。
そんな杉の隣で、一緒に荷物を持って帰宅していると、まるで、本当に昔に戻ったみたいだ。
やばい、涙が出てきそう。
止め処なくあふれ出す涙が零れない様に、俺は少し上を向きながら、懐かしい夕暮れの中を杉と2人でゆっくり歩いて、家へと帰っていったのだった。







(あの日もこうして、きみと歩いた)


久々の高銀
甘いのをお願いしますとリクを頂いたので書いてみました
あれ?甘くなくない??
甘くないんだけど、どうしてなんだろう不思議です



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