新一、と自身を呼ぶ声が耳に入り込んできた。
振り向けばお隣の発明家が、小さな科学者の手を引いて立っている。手にはスーパーの買い物袋。どうやら夕飯の買い物に行って帰りのようだった。
袋から見える青葱、豆腐、肉に春菊等の野菜類・・・今日の夕飯は鍋らしい。

「新一、今日は鍋じゃよ。楽しみじゃのぅ!」

るんるん気分で博士は言った。
博士は食べることが大好きだ。しかし、持病持ちのためあまり高カロリーな食べ物は食べられない。いや、博士自身は食べたいのだが、いかんせん小さな同居人がそれを許さないのだ。
久々の肉で嬉しいのか、それとも鍋ということ自体が嬉しいのか(博士は大勢の食事や温かい食べ物が大好きなのだ)笑顔がとてもまぶしい。
新一は思わず、うっ!と呻き声を上げ、一歩後ろへと後退した。
徹夜明けの事件解決、しかも現場の血の匂いがたっぷり染み込んだ自分には、いかんせん博士の幸せそうな笑顔は眩しすぎたのだ。
小さな科学者が呆れて溜息をついている。どうやら、彼女は鍋ごときにここまで幸せになれる博士にも、そんな博士を苦手とした俺にも呆れている様だ。まいった。
と、いつまでもここでこんなことをしている場合ではない。新一は徹夜明けの体(しかも病気持ちの虚弱体質・・・例の薬の副作用だ)に鞭打って、博士と少女の持つ大きな荷物を、よっと抱え、早く家に帰ろうぜ、と2人を促した。
後ろを歩く2人が、温かい微笑を浮かべていたのに、気が付かないまま、新一は博士の家へと急いだのだった。


夕暮れ星とワルツを

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